Robert A. Bjork

BjorkさんというUCLA心理学の教授が、UCLAで一番頑張っている教授に任される"UCLA Faculty Research Lecture"をするというので、ちょっともぐりこんで聴講してきました。どういうスケジュールで学習をし、学習後の試験がどのくらい間をおいて行われるかによりどのような結果がでるか、ということをみっちりと研究してきた人です。(参考: http://bjorklab.psych.ucla.edu/research.html)

例えば、"massed learning"という、同じ問題を短期間に連続的に勉強する群と、トータルの勉強時間は同じでも間に間をおいて勉強する群(spaced learning)を比較した時に、勉強期間の直後(1日後など)に試験した場合はmassed learningのほうが良い結果を出すが、1ヶ月後に試験した場合はspaced learningのほうがよいという研究結果があるそうです。

子供がお手玉を3 feet先の箱に投げ入れるという練習をする時も、箱を常に3 feet先において練習した群と、2 feetと4 feet先をターゲットとして練習した群を比べた時に、時間をおいてから3 feet 先の箱を使ったテストをすると後者のほうがよい結果をだすというのもありました。

面白いのは、学習中の被験者にアンケートをとると、massed learningをしている最中の被験者のほうが、「テストでよい結果が出る」と返答するのに対し、実際にはspaced learningをした被験者のほうがよい結果をだすということで、講演のタイトルでもあった"How we learn versus how we think we learn"という話が出てきます。

心理学の実験なのでいろいろと講演だけでは語られなかった付帯条件などもあるとは思いますが、こういうことを実際に実験して、直感には反する結果をじっくりと出し続けていたのだなあということが驚きでした。

Edward Tufte セミナー

視覚化やプレゼンテーションに関するアイディアや著書で有名なEdward Tufteは、1日セミナーを全国で開催しているのですが、今回は近場で開かれるということで参加してきました。立派なホテルのホールに200人くらい受講者が来ているのでなかなかのものです。最初の1時間は彼の著書を読むという時間に充てられています。(が、Tufteがその間に歩き回って本にサインをしてくれます(頼まなくてもしてくれたりします)。同僚の意見によれば、講演後に後でサインを求める人の列ができるよりも時間短縮になるのでは、ということで、まあそうなのかのとも思ったりします。

講演は(本と同様に)いくつかの実例を表示して、良い点、悪い点を指摘するところからはじまります。話の中でひとつ強調されていたのは「いったい何個の数字・データが見る人に提供されているのか」ということでした。ダッシュボードでは、たかだか5つくらいの数を表示するためにありとあらゆる飾りやデザインを使ってしまいますが、グラフやアイコン、そして必要に応じて文字で数値を表示することにより、数千の数値を伝えることはできますし、現代の5kや8kディスプレイはP.A.P.E.R.テクノロジーの半分くらいの解像度までは来ているので、情報を簡略化するというよりは、一覧性を高めることを考慮するべきという話でした。

espn.comの野球のページなども、box scoreに多数の数値が表としてまとめられたあとで、ホームランなどの稀な出来事は言葉で別のところに書くというスタイルになっています。espnのサイトのコメント欄を読めばどのくらいの知性の人が見ているかが見当がつくが、そういう人でさえもこれだけの数値を咀嚼できる、という話でした。

New York Timesにも悪い例があるということで、数値やグラフを使ってもっともらしい議論をしていても、未来予測のグラフがあまりにも正確すぎたり、情報元として示されている組織が中立ではなかったりするということに着目すると、信ぴょう性のない情報がわかる、という話でした。

午後のセッションでは、プレゼンテーションをする時のスタイル、そして心構えという類の話が多くなりました。Jeff BezosやSteve BallmerやSteve JobsPowerPointを嫌っているという話をし、Amazonではプレゼンターは6ページほどの文書を事前に作成し、会議に集まったところで各自がそれを読んで、そこから質疑をするというスタイルにしているそうです。スライドプレゼンテーションでは多くの時間が要点が話されるのを待つことに費やされてしまいますし、一覧性のある文書であれば各自が自分の早さでじっくりと読めますし、発表者も手塩にかけた文章が実際に読まれているというところを見られるのでやりがいがあるという話でした。

彼はしばしば「アホな上役に対してプレゼンテーションをしなくてはならないが、数値をどのようにまとめて視覚化すれば良いか」という質問を受けるそうです。が、彼の回答は「もし上役のことをアホだと思っているようならまずはあなたはプレゼンをしない方が良いかもしれない。」というところから始まるそうです。発表者の心構えとしては、まずは「同僚に対する信頼」に立脚していなくてはならず、批判を受けても、その動機について邪推をする必要はなく、真摯に受け止めるべきだと言います。大概のグループは似たような人が集まっている中で、意見の相違があった場合にはあなたが常に正しい側にいるという可能性は低いのですから。

後は、発表は内容で勝負するべきであって、あなたがどれだけ準備に時間をかけたかとか、スライドの枚数を何間に減らした、とかそういう話には触れるべきではないという話もありました。

Sparklineは1単語程度のスペースに数千の数値を表現できるし、名詞ではなく動詞としてのアノテーション付きの矢印を上手に使うのが良いという話もありました。

彼自身の講演スタイルで面白かったのは、皆から見えるところに助手の人がいて、話の内容に応じてウェブページをズームしたり、例としてあげるアニメーションを進めたりしているのですが、ときどき流れの都合上、助手の人がTufteにシナリオを指し示して「次はこの話をしてください」とひそひそ言っていたりするところでした。まあそういうこともあるでしょう。

というわけで、1日のセミナーとしては私も1日分以上に賢くなれたような気がします。

[Person] Marvin Minsky (1927-2016)

I once had a short chat with Marvin. At our Glendale office several years ago, he was taking a break from his meeting and ventured into our office area. I was playing with a puzzle (see pictures above) and told him that there are to solutions for this puzzle (one in which two heads are aligned, and one in which they are not). As I said "this is like entangled electrons' spin", he immediately responded with a meta question (to the effect of): "Why do these things always come in twos, and not threes or more?, positive, negative, up down?" I could not say much except something like "well, a line has two directions, and..." but that question lingers on in my brain as a sort of question that is philosophical and gives a hint of the world since then. I don't think that he meant this question to be profound, but an answer for a "why" question sometimes leads to more questions.

Alan said that Marvin was a stereo typical "mad scientist"; this short conversation was enough for me to see why he said that.

Marvin Minsky (1927-2016)

Marvinがとあるミーティングに参加するためにApplied Mindsのオフィスに来ていて、休憩を取るためにViewpointsのエリアでちょっと時間をつぶしていたことがあります。私はごく簡単な知恵の輪で遊んでいたのですが、実はそのパズルにはふた通りの解があるということに気がついて(写真のように、頭が同じほうを向いている場合と反対を向いている場合)、Marvinにそれを見せつつ、「このパズルにはふた通りのやりかたがあるんだよね。上向きと下向きで電子のスピンみたい」と言ってみたのです。

すると彼は間髪入れずに「こういうものって大抵2つ組だよね。3とかそれ以上じゃなくて。上と下、正と負みたいに。なぜだろうね」と答えてきました。私は「...ええ、一次元の線には向きが二つあるし,むにゃむにゃ」と返す程度で話を進めることはできなかったのですが、その後もこの簡単な質問は世界観と哲学的な匂いをまとって私の頭の中に残っています。本人はそれほどビックリさせるようなことを言ったつもりはなかったかもしれませんが、「なぜ」という質問はしばしばひとつの答えがさらなる答えを要求しますし。

Alan曰く、"Mad Scientistの代表"という彼ですが、こんなやりとりでも「そうだな」と思わされることでした。

古いビデオ

以前からVPRIにある千本くらいのビデオをデジタイズしています。中にはいろいろ面白いものもあります。

例えば、Stanford AI Labが67年に作ったこのビデオ。プロデューサーにはJohn McCarthyとGary Feldmanの名が上がっています。

話によれば当時は研究成果が出て予算が余ったらコメディービデオを作っても良かったという良い時代で、このビデオもインタラクティブデバッガーをロマンスがらみで紹介しています。Brian HarveyによればStanfordでももうテープが失われている、ということで、VPRIにあるコピーはたぶん世界でも数少ないものでしょう。Lisper系や古いコンピュータ好きな方は必見です。

あるいは、今日はMIT Media Lab 30周年のイベントがありましたが、こちらはMIT Media Lab 5周年の時のNegroponteの講演です。

近況

ほとんど内輪の集まりという感じのBlocks and Beyond Workshopで"work in progress"のものを発表しました。

http://www.vpri.org/pdf/tr2015003_modsys.pdf

他の発表者が「どうやって初学者をブロック言語からテキストベースの言語に移行させるか」というような話をしている中で、「未来のブロック言語なら自分自身を編集できるようになって当然だろう」というテーマの話なのである意味浮いていたかもしれませんが、まあいずれ歴史が証明してくれて私も学会に復讐ができるというものでしょう。(いや、ワークショップの次の日はインフォーマルな集まりということで時間があったのですが、討議の中である程度のアイディアの種はやり取りできたような気はします)。

読んだ本は、いまさらながらSchoolhouse Politics。

Schoolhouse Politics: Lessons from the Sputnik Era

Schoolhouse Politics: Lessons from the Sputnik Era

Jerome BrunerのM.A.C.O.Sがいかにして作られ、いかにして政治の波に巻き込まれて消えていったのか、ということをまさに渦中にいた第一人者がまとめた本です。「新しいカリキュラム作りということは、必然的に政治的である」ということが一番の教訓ですが、これは現在のコンピュータ教育にも当てはまるわけではあります。

最近読んだ本

なぜかSFが多かったです。

The Swarm:

The Swarm: A Novel

The Swarm: A Novel

文明崩壊もので、深海に哺乳類以前から住んでいた生物が人類を狙って蜂起するという話です。充実のリサーチに基づいている、ということもあるのでしょうがなにしろ長い。テクニカルな話だけではなくロシア文学のように、登場人物の内省が延々と10ページ以上続いたりします。それに前半は大崩壊の予兆があちこちで起こっているという話で、なかなか辛い面もありますが、後半までたどり着くと大いに盛り上がってきます。映画化決定、という話もあるようなのでどう料理されてくるのかやや興味深いところです。

Ready Player One:

Ready Player One: A Novel

Ready Player One: A Novel

こちらもいうなれば文明崩壊ものと言えなくもないですが、2044年頃に世界規模のVRが社会を覆い、その設立者が遺言として80年代のポップカルチャーに基づく謎解きコンテストを仕掛けるという話です。寡聞にして出版数年後の今頃になって知ったのですが、これがとても面白い。ゲームや映画や特撮ものの話など、我々の世代ど真ん中、という感じです。Ken Perlinが先日のミーティングの時に紹介してくれました。

主人公が東映スパイダーマンに出てくるレオパルドンをゲットしたりウルトラマンに変身してメカゴジラと戦ったりするという場面も出てくるのですが、こちらもリサーチが充実していて楽しめます。(でも、レオパルドンが出てきた以上、その最強伝説ネタがストーリーに絡むのかと期待していましたが、そういうわけではありませんでしたが。)

ハリーポッタースーパーロボット大戦サイバーパンクの世界にあり、可愛らしいラブストーリーも絡んでいて、かなりオススメです。映画化決定のようですが、こちらはもう映画向きの話なので結構期待しています。

Being Mortal:

Being Mortal: Medicine and What Matters in the End

Being Mortal: Medicine and What Matters in the End

Atul Gawandeの本については以前も書いたことがありますが(http://d.hatena.ne.jp/squeaker/20111230#p1)、彼の(比較的)新しい本です。

この本は終末医療に特化して書かれたものですが、医療の目的が「1日、1秒でも長く生存させれば良い」と言わんばかりのようになっている現状を憂い、死は必ず訪れるものであって人が死ぬのは医療の失敗ではない、という前提から、人々のQuality of Lifeが重要であるということを強く述べている本です。映画化はされないとは思いますが、自分や家族の死に際について考えさせられる本です。