OOPSLA

Fred Brooksが朝一の招待講演。75歳ではないかと思うのだが、とても元気。彼はソフトウェアに限らず相当にいろいろな部門のデザインやプロジェクト管理をしてきているのである。Conceptual Integrityが必要ということで、プロジェクトが大きくなっても、Chief Architectがいてその補助がいて、UIのデザイナーが一人別にいるというような形で、システム全体の意思決定をできる人がいるようにしておいたほうが良い(が、質問にもあったように、コミティーによってデザインされたソフトウェアがたくさん成功していながらも憎まれているという例を挙げていたわけで、成功するということが目標であれば別にコミティーでデザインしてもよいのではないかという疑問は残るわけである)。伽藍とバザールでも、疎結合のそれぞれの部品の中にはConceptual Integrityがある。また成功しているバザーモデルでは、開発者達が主に自分が使うものを作ることが多いということで、顧客からの要求や仕様はすでに内部化されている。要求が外部から来る場合には適用しにくいという意見であった。

とはいうものの、Airbus 380はヨーロッパ中のあちこちで分散してデザインをしていた。よいドキュメントが重要であとは対面しての会話は何事にも変えがたい。そのために、デザインオフィスのあるヨーロッパ中で毎日飛行機が飛んでいた。tele conferenceはあくまでのそれらの後に来るものである。

質問で、「Brooksは銀の弾丸はないといっていたが、数年前にオブジェクト指向こそが銀の弾丸かもしれないと言ったことがあるが、今の考えはどうなのか」というものがあった(これはAlanにそっといった、というストーリーを聞いていたのだが、実はみんな知っていることだったのだな)。答えは、「OOは一番うまく狼をやっつけてきているものであるが、10倍というような生産性の向上をもたらしたところを見たことが無いので、真の銀の弾丸になっているとまではいえないのではないか」というものであった。

別の質問は、「要求というものは設計したりユーザーにプロトタイプを使ってもらったりするところから生まれてくるものもあるので、一人がデザインするということにはそぐわないのではないか」というものがあった。返事は...いまいち忘れたな。

ソフトウェアの見かけ上の柔軟性(perceived malleabilty)というものがあって、後からソフトウェアは変更できるので要求として「変えてくれ」というものが気安く出てくる。それが問題である。という話もあった。

彼はその後のパネルセッションにも参加していた(またパネルを見に行ってしまった)。Martin Fowlerが狼の被り物をして狼人間からの視点を提供していた。私の言葉でまとめると、銀の弾丸はないといえば無いが(仮に10倍の生産性向上をしても、100倍のところを求めたい人間心理は残るので)、それでも過去に生産性の向上は達成されたし、多くの人がコードを書けるようになった。あまりにも危険なコードが壊滅的打撃を文明に対して与えることを防げれば、いろいろなツールや新言語で多くの人間が向上していくのは良いのではないか、というあたりだろうか。

もう一つの大目玉の招待講演はJohn McCarthyだった。彼がしばらく考えているElephantというAI言語の紹介だったが、その紹介部分はあまりにも抽象であった。彼のスライドは(京都賞2004のときと同様に)、大体しゃべることが文章として書かれていて、それを読んでちょっと膨らますというスタイルだが、Scottのいう「自分が昔かいたスライドを読んでいるのに、観客以上にどこを読めばよいかがわからなくなっていた」という評が当たっていたかもしれない(Scottは30年以上前にMcCarthyから授業を受けていた口だし、そういう時代の大学の雰囲気を知っているのでいろいろ言える)。

Elephantの紹介は短めに終わって質問タイムになったのだが、最初の質問者の一人が気が効いていて、Johnがチラッと見せながらも飛ばしていたLispの黎明期の歴史についてのスライドをちゃんと説明してくれ、といった。その部分のほうが楽しかったな。例のeval関数は、論理学者を驚かすために書いたもので実行するためのものではなかったが、Steve Russellが「このeval関数をLispで書けばインタープリタの出来上がりではないか」と言ったのでそれに気が付い。Steveは実装までやったという話とか。AI Labを立ち上げるための資金がどのくらい簡単に手に入ったかとか(メモは取ったが書くのはめんどくさいので省略)。

その後は、David Pernesの招待講演。彼もソフトウェア工学界では偉大な一人なのだが、ちょっとドキュメントを書くべきだ、というほうに話が偏りすぎているのではないかという気はしたわけである。

夜は(昼もだが)日本からのI先生やC先生やM先生からうわさ話を聞いたり、JohnとDaveのペアにOLPCを見せたり、OLPCで女の子の注目を集めたり、RalphにOLPCを説明したり。