Richard Dawkins "The Greatest Show on Earth"講演会

Caltechで開かれたSkeptic Society主催によるRichard Dawkinsの講演会に行ってきました。入場待ちの列がBeckman Auditoriumの周りを2周くらいとりまくような状況で、ロックスター的人気でした。「『種の起源』を無料で進呈しますよ」という組織的運動があって、私も一部もらったのですが、50ページほどのイントロダクションがついていて、そこには創造論者の意見がみっちりと書いてありました。最初は、単なる『種の起源』かと思ったので「配る場所を間違えているのでは」と思ったのですが、まさにDawkinsの話を聞きに来るような人に働きかけたかった人々でした。

講演は、「"Mr. Deity"(神ちゃん、とでも言うのりか)からのPower Point プレゼンテーションが届きました」というねたで、「Richardを作って失敗だったよ、と言っていました」とかいう数枚のスライドで紹介が始まり、本編はMichael ShermerがRichard Dawkinsにインタビューするという形式でした。以下はかぎ括弧の中がDawkinsの発言の要約です。

「社会的発言をするという意味では反逆児のように見えるかもしれないが、neo-Darwinismの正統に基づいているという意味ではとても正統派である。」「Gouldは反逆児の振りをしているけど正統派である。」「師であったNiko Timbergenはselfish geneのアイディアに乗れずに時代遅れであったと思われているが、彼からは多くのことを学んだ。わかりやすく深いことを楽しく書くというPeter Medawarの文章のスタイルにも多くを学んだ。彼は最高の批判的な書評が書けた(Selfish Geneの新しい版の脚注でも引用されている『能力をはるかに上回る教育を受けてしまった人たち』とか)。

「Dawkinsの学問分野における晦渋度保存則とは、分野の中身にできた真空は常に晦渋が埋めてしまう」

「60年代に博士号をとり、生物学の講義をOxfordとBerkeleyでしたが、W.D. Hamiltonが発表した"Genetical Evolution of Social Behavior"に大変大きなインスピレーションを得て、Timbergenからこれをやりなさいといわれていた講義ノートはほとんど気にせずにHamiltonのアイディアを元に講義をした。あるとき数日停電したときがあって、研究ができないのでそのときにSelfish Geneを書き始めたが、残念ながら数日で停電が直ってしまったので、サバティカルまで待って書き上げた。この本は一般向けと専門家向けと両方を意図して書いた。そういう本がもっとあるべきだし、そういう本を書くと科学者ももっと理解が深まる。」

「Oxfordでは論文書きの他に、毎週一通から二通のエッセイを書くことになる。そこでかなり磨かれた。本を書くときは、章ごとにもう一人の自分に読み聞かせるつもりで自分が書いたものを読み返す。」

「今度は子供向けの"The Magic and Reality"という本を書いている。章ごとに、虹って何なの?とか地震って何なの?とかの疑問を取り上げ、まず神話的説明をいくつかあげた後で科学の説明を書いている。」

"The Greatest Show on Earth"を10分で説明してくれという問いに対して「進化の証拠をひとつひとつとりあげ、誤解を解くという本である。イヌやハトやキャベツの交配が以下に速く効果を示すかという人工交配から自然淘汰の話につなげ、鳥の目がいかに無視の進化を助けるかという話をする。化石が如何に古いか。目の前でまさに起こっている進化の例。創造論者は化石を取り上げて、ギャップがあるということを言い続けている。彼らはギャップが大好きだが、ギャップなぞはあるに決まっている。ただ、今までおかしな順序で見つかった化石がないということが重要。ウサギの化石がカンブリア記の地層から出たことはない。化石なぞはそもそも証拠としては重要ではないし。いまやDNAが読めるので、文化の樹形図が正確に書ける。体内には間違ったデザインがたくさんある。声帯に伸びる神経は、脳から直接行くのではなく、冠状動脈のあたりまで行ってそれからもどってくる。キリンでは15 feetくらいも遠回りで、工業デザインならあっという間にキャンセルになるようなデザインである。」

チーターはガゼルの足が速いから足が速くなった。ガゼルはチーターの足が速いから足が速くなった。デザイナがーいたとしたらいったいどっちの見方なのだといいたくなる。」

「聖書を実際に読んでみたら、今の道徳観からして到底受け入れられない話が次から次へと出てくる。ある節だけを抜き出して他は見ないようにしている人もいるが、だったら聖書全体を捨てればよいのに」

「宗教教育をするなら、世界のいろいろな宗教について教えたらよい。そうすればより非宗教的になる子供の割合が増えてよいだろう。」

「政治では左から右へのなだらかな一次元のスペクトルなどはない。イギリスでは保守党に投票したことはないが、保守党というのはアメリカでいえば右よりの民主党ぐらいだろうか」

「リベラルの人は、論理によって人を説得できると思っている」。宗教に凝り固まって論理の通じないタリバンみたいな人もいるよねという問いに「タリバンまで行かなくてもそういう人は見つかるよね」

「地学でHarvardから博士号をとった若い知り合いがいて、ありとあらゆる科学的事実を知っているが、それでも地球が生まれたのは6000年前だと聖書に書いてあるのでそれが正しいと思うという。そういう人は説得不可能。人類の知性とHarvardの教育レベルがこれでわかる」

軍隊が必要か?「暴力は嫌いだが、自分も時代ならナチとは戦っていただろうし、難しい。」

「Right Wingerにはあほがいるよね。Sarah Palinとか」

人にやさしくするのはなぜだろう?進化上の事故みたいなものか?「私は人がどう生きるべきかという社会的問題に関してはとてもanti-Darwinismである。なぜ困っている人を見ると同乗してしまうのかとか、献血をするのかということはDarwinismでは説明できない。人間は長いこと小さなグループで生活していて、知っている人にはやさしくするという進化をしたが、何百万人が集まって暮らすようになってもそのときの基本ルールをたまたま守って暮らしている。間違いといえば間違いだが、とても良い間違いだと思う。社会保障や弱者への補助は大いにすべき。社会的DarwinismというのはとてもRight Winger的。」

道徳的価値というのは進化などの説明を超越して人に説明できないのだろうか?「論理的思考をする人が集まって、自分たちが住みたいのはどういう社会なのかということをもっと話すとよい。」

5000年経ったりしたら、宗教を人間は乗り越えているだろうか?「ニュートンもとても宗教的だったわけだが、今ではathiestも多い。良い方向に進んでいるのではないだろうか。」

ローマ法王を訴追するという話。「弁護士がいろいろな件を当たって、訴追可能性のある件のリストを作って本にして出版している("The Case of The Pope")」。

しばしば戦闘的無神論者と呼ばれているが?「stridentというのはathiestにつく定冠詞みたいなもので深い意味はない。Douglas Adamsも書いていたが、ある種のことは「とにかく言わないで!」ということになっている。レストランや本の批評の厳しさに比べれば、宗教批判は実際のところとてもマイルドなのに、ちょっというと大きくたたかれる。」

God's Delusionはなぜ1997年ではなく2007年に出版されたのだろう?「1997年の時点では、『これはアメリカでは出版できない』といわれた。ブッシュが出てきたりして、2007年には出版社のほうから出そうといってきた。」

ヨハネ・パウロ二世が銃撃されて、銃弾が体内で止まって最悪の事態を免れたとき『Lady of Fatimaの加護があった』といったが、だったらなんでそもそも銃弾があたらないようにしなかったのだろうか。他の聖人たちは他の銃弾を跳ね返すのに忙しかったのか。

フェミニストは、the future of manという代わりに人々がthe future of humanityというようにできた。athiestも努力可能で、たとえば子供については『カソリックのことも』とか『ムスリムの子供』とか『ポストモダンの子供』とかいう言い回しを耳にするたびに、眉をひそめて『カソリックの親に産まれた子供ってこと?』といいなおすようなことをするべし。」

South Parkには取り上げられたこともあるが、脈絡もなくいろいろなことを風刺するだけというSouth Parkにはそれほど感心していない。」

Shermer: "アメリカ人は、いつも正しいことをする。間違ったことを全部試した後で。"

「ロンドンにイスラム学校があり、訪問したことがあるが生徒も先生も誰も進化論を信じていない。コーランに書いてないから。塩水と真水が混ざらないということも信じている。コーランにそう書いてあるから。目の前で塩水と真水をまぜてみせてもたぶん考えは変わらない。イスラムは武力征服の宗教であり、アフリカでは奴隷化の宗教。」

「Doug Adamsは7 footもあるような大きな人で、陽気でとても良い友人だった。」

遺伝子操作の未来は?「自然淘汰と変異のうち、淘汰のほうは家畜化という形で何世紀も人間は利用してきた。変異を制御できるようになってきて、遺伝子をコピーペーストすることもできるようになっている。大変な可能性とリスクがある。」

「信者と論争するのは最初はちょっと楽しいが、同じ議論を何度もするのは退屈だし時間の無駄。『人間(man)が猿から進化したのなら、最初の女性はどこから来たの』とか言われる。若い地球説を唱える人は、同位体の崩壊速度が都合よく変化したなどともいえるので、無敵である。」