Internet 50イベント

現在のインターネットの直接の祖先であるネットワークシステム上で初めてデータが送られたのは、ちょうど50年前の1969年10月29日のことでした。今日は、そのことを記念してUCLAで行われたイベントThe Internet 50に参加してきました(コンピューター間でデータのやりとりをしたのはこれが最初ということではないですし、また実際に異なるネットワーク間をつなぐという"inter-networking"が実装されたのは何年か後のことなので、この日をもってインターネットが生まれたというのはやや恣意的なところはありますが、お祝い事はたくさんやったらよいのです)。

初期実験の主導者Len Kleinrockはまだまだ健在で、今日のイベントの主役でもありました。LAの市長Eric GarcettiがKleinrockの業績を紹介し、それを顕彰する賞状を進呈していました。Lenは間違いなく重要な仕事を成し遂げた人ですが、UCLAで時々通りかかる彼のオフィスの壁は色々な賞状が飾ってあり、そういうものを飾るのが好きな人のようででもあります。今日また新たに一つ付け加わったわけです。

Lenの最初の講演のトーンは「高い理想を持ってインターネットを作ったのに、50年経ってみてみるとダークサイドばかりが目立ってちょっとがっかりする」というものでした。(家に帰って新聞をみたら、同趣旨の意見が載っていました。https://www.latimes.com/opinion/story/2019-10-29/internet-50th-anniversary-ucla-kleinrock)

最初のパネルは当時実際に携わったBill Duvall, Charlie Klein, Steve Crocket, Vint Cerf、Len Kleinrockの話をJohn Markoffがモデレーターとして聞くというもので、これは参加して聞いた甲斐があると思えるものでした。成功の鍵は若者の情熱、そして国からの豊富な研究資金をプロジェクトにではなく何か大きなことをやりそうな研究者に提供するという当時の資金提供の手法ということで、それを可能としたARPA側のビジョンとビジョナリーにも大きな感謝が捧げられていました。個人的に興味のある「ARPNetは核戦争にも耐えられる対故障性を持たせるべく設計された」という「伝説」の話もあり、こういうニュアンスに富んだ話の例に漏れず、答えはyes/noで簡単に言えるようなものではないという話がでてきました。現場の若手はそのようなことは気にせずに使えるネットワークを作りたいと思ってやっていた人が多く、実際に核戦争レベルの対故障性を求めていたらデザインも変わっていたとは思う、という発言があった一方で、それでも上層部は軍に説明するためにそういう話をしていたり、また現場には直接言わなかったけれども、のちに行われた衛星や移動式の版を使った実験などの提案はそのようなことを念頭に置いていたという話もあったりして、The Dream Machineにもあったように単純な話ではないわけですが、やはり実際の人々から話を聞けたのはよかったです。

次のセッションはJP Morgan ChaseのJamie DimonとAlphabetのEric Schmidtが登壇し、未来について語っていました。が、特にDimonは「我々の世代がこんなに素晴らしいものを作って渡しているのだから、若い世代はそれを使ってもっと良いものを作っていけば良い」というむやみな楽観論だったりしてちょっとどうかなと思いました。Eric Schmidtも、ネットによる中央集権化は恐れることはない、エッジでいつも新しいことが起こっているのだから、ということではありましたが、「そりゃGoogleの人は気楽に言えるけどさ」と思わなくはないです。実はDimonが最初に話す時に、JP Morganが気候変動の対策をサボタージュしているという横断幕を掲げた活動家が舞台に駆け寄り、太鼓を鳴らしながら騒ぐという一幕がありました。

次は、Mark Cuban、Ashton Kutcher、Preethi Kasireddy、Bud Tribbleそしてプログラムには載っていませんでしたがMeg Whitmanがパネリストとなり、Ellen Levyがモデレーターという組み合わせでした。テーマは"disruption"ということでしたが、もはやインターネットというよりはテクノロジーについてのセッションでした。Mark Cubanの、「気候変動に対処しなかったら、ここで言っている未来技術の話は全部意味がなくなる」という当たり前の発言、そしてKutcherが情熱を持って取り組んでいる幼児ポルノの問題など良い話もあったのですが、他の参加者からの要旨の取れない発言があったりもしてちょっとしまらない感じではありました。Meg Whitmanはカリフォルニアの知事に以前立候補した時に、自宅のメイドはそれまで家族の仲間として長年住まわせていたのに、実は不法労働者だったということが報道されそうになった瞬間に追い出したりしたことがあったのですが、それでもこういう場で「人々のことをしっかり考えて」みたいなことを言っているのを聞くと微妙な気にはなります。

午後はAkamaiのCEO Tom LeightonとRadia Perlmanとの組み合わせだったのですが、運営は何をトチ狂ったのか、あのインターネットの母(はちょっとだけ大げさかもしれませんが)そして子供向けプログラミングでも成果を残したPerlmanを、脇役のインタビュアーとして使い、Leightonに今のインターネット企業のセキュリティの取り組みについて話させるという中身の薄いセッションにしてしまっていました。Perlmanならピンでもインターネット50年について深い話ができたはずななのに。

そのあとは、Molly Burke、Judy Estrin、Eugene Voloch、Rick WilsonそしてKatie Hafnerによる、言論の自由と責任についての議論でした。必要な議論ではありますが、インターネット50周年のイベントでやるべきものだったのかというのはちょっと微妙です。

その次はPeter ThielとBob Metcalfeのディベートで、題は「イノベーションのペースは落ちているのか」というものでした。ちゃんと真っ向から意見を戦わせつつ、聴衆も笑わせて中身もあり、これはパネルとしてはなかなかよかったと思います。Thielの立場は、80年代以降インターネットとビットに関わる技術は確かに進歩したが、そこ以外ではほとんど世の中にインパクトを与えるようなイノベーションは非常に少ないという主張で、Metcalfeはいや、特許の数や研究資金の額を見ればどんどん伸びているということではあったのですが、このパネルに限ってはThielの主張のほうに賛成してしまいます。(他のThielの行動や意見には同意しかねるものもありますが、少なくともそういう行動や意見を論理的に説明できるところは評価できると思います。)

その次はPatrisse Cullors、Bran Ferren、Jameela Jamil、Katelyn OhashiそしてRaffi Krikorianで、ビデオがバイラルになったりするというメガフォーン効果についての議論だったのですが、ちょっと中身がなさすぎて私にはコメントができない感じです。Bran Ferrenはディズニー時代の上司でもあり、考えはちゃんとある人なのですが、やはり時間が短すぎたようです。また、タレントでもあるJameela Jamilはなぜかすべてのコメントに対して自分が何か言わないといけないと思っていたのかいちいちありきたりのことを言うという感じではありました。

最後のパネルはEric Haseltine、Danny HIllis、Daniela Rus、Henry Samueli、Steven WalkerそしてRon Conwayというセッションで、未来の予想の話でした。EricとDannyはこれまた私のディズニー時代からの上司・同僚であり、評価の高い未来論者です。脳直結インターフェイス、完全に空気のようになったネットワークというような世界像が語られました。みな話し慣れしておりなかなか楽しかったです。

Werner Herzogがいくつかのドキュメンタリー制作の時の事実のあり方について話をしました。

Gary Kasparovが話をしました。50年前はアポロ計画もあり、アメリカも「難しいからこそチャレンジする」という大きな夢を持っていた時代で、Appllo 11の着陸を見るために皆が街に出たりしていたのに、今はiPhone 11という、既に持っている電話と大差ないものを手に入れるために人々が並んでいる。また50年後に振り返って今のことが話題になるような大きな夢を持とうではないかという話で、なかなかよかったと思います。

締めくくりはもう一度Kleinrockで、こちらもまた次の50年のためになにかをやりましょうという話でした。

イベントはややセレブリティーに頼りすぎで、50年間の努力の話がやや薄すぎたのと、セッション観に登壇者と話すような時間もなく、connectivityがどうのこうのという会としては、ちょっと寂しかったかなとは思います。が、最初に書いたようにお祝いはたくさんやったら良いですし、また我々の仕事は実際に何かをすることなので、その動機付けにはなってくれたと思います。

Adaptive MSDF

私がSqueak仲間に入れてもらったきっかけの一つは、ビットマップのテキストしかなかったSqueakを改良して、TrueTypeフォントを使ったテキストが使えるようにしたことではないかと思っているわけではあります。

最近は3Dグラフィックスのプログラミングをしているのですが、我々のシステムでも、読みやすいテキストが必要ということで、世の中の人が使っているMultichannel Signed Distance Fieldというやつに基づくテキストを実装して見ました。

ところで、この手法は文字サイズが小さくなると読みにくくなるという問題が知られています。他の人もアダプティブレンダリング方法を切り替えて、サイズが小さい時はあらかじめ作っておいたビットマップをテクスチャとして使う方法に切り替えているわけなのですが、具体的にその情報をどこにしまっておこうかなと思っていたところ、例によって賢い同僚が「MSDFはRGBしかつかっていないのだから、Aチャネルにしまっておいて、shaderで切り替えて使えば良い」と言ってくれました。なんとシンプルで賢いのか。

というわけで、早速その手法を実装すると、期待通りにズームインしてもズームアウトしても読みやすいテキスト部品が作れました。これで心置きなくスクリプティングシステムを作っていけます。めでたしめでたし。

近況

唐突ですが、9月1日付でY Combinator Researchを退職しました。事情はともあれ、非営利団体の研究機関を成り立たせるだけの力がなかったことが悔やまれるところではあります。(追記: 「事情」のところは不可抗力と言えるものが多大にあり、私に「成り立たせるだけの力がなかった」というのは過剰な文言ではないのかという指摘がありました。ありがとうございます。とはいえ、どうしてももうちょっと早く将来を予測して行動につなげていれば、という後悔はしてしまうわけではあります。)

YCRでの終盤は、Shadamaという言語を作っていました。その言語の目的と、実際に試せる環境へのリンクがこちらにあります。
http://tinlizzie.org/~ohshima/shadama2/live2017
これは「高校生用」というつもりで作っていましたが、ビジネス界でもGPUを活用したエンドユーザー向けシミューレーション言語というものはもしかしたら需要があるのかもしれないと思ったりはしています。

次の進路は確実には決まっていないので、多分数ヶ月は地道な就職活動をすることになると思います。もしこれをお読みの方で何か私にお手伝いできることがあればお伝えください。

転職しました

https://blog.ycombinator.com/harc

諸般の事情により所属先が変わりました。といっても過去にあった所属先変更と同様に、同じグループで、同様のビジョンに基づいた研究・開発をしています。

新しい職場はY Combinator Researchというところで、グループの名前は HARC "Human Advancement Research Community"ということになっています。象徴的ボスはAlan Kayです。彼もまだまだ元気です。

YCRができたきっかけは、Sam AltmanというY Combinatorの社長が「利益追求のスタートアップとは別に、長期的な研究をして社会に還元する組織を作りたい」ということで、大きな研究組織作りに一家言あるAlanに相談したことです。元々は一般論としてARPA内でどのような研究者たちがどのような人間関係で研究を行っていたのかという話でしたが、1年ほどのうちに、「本当に組織を作るならこのグループから始めたら良い」という話になったわけです。

多分数週間のうちに、わたしが同僚とやろうとしていることのアウトラインに関するメモも公開することになると思います。

というわけで、これからもよろしくお願いします。

Robert A. Bjork

BjorkさんというUCLA心理学の教授が、UCLAで一番頑張っている教授に任される"UCLA Faculty Research Lecture"をするというので、ちょっともぐりこんで聴講してきました。どういうスケジュールで学習をし、学習後の試験がどのくらい間をおいて行われるかによりどのような結果がでるか、ということをみっちりと研究してきた人です。(参考: http://bjorklab.psych.ucla.edu/research.html)

例えば、"massed learning"という、同じ問題を短期間に連続的に勉強する群と、トータルの勉強時間は同じでも間に間をおいて勉強する群(spaced learning)を比較した時に、勉強期間の直後(1日後など)に試験した場合はmassed learningのほうが良い結果を出すが、1ヶ月後に試験した場合はspaced learningのほうがよいという研究結果があるそうです。

子供がお手玉を3 feet先の箱に投げ入れるという練習をする時も、箱を常に3 feet先において練習した群と、2 feetと4 feet先をターゲットとして練習した群を比べた時に、時間をおいてから3 feet 先の箱を使ったテストをすると後者のほうがよい結果をだすというのもありました。

面白いのは、学習中の被験者にアンケートをとると、massed learningをしている最中の被験者のほうが、「テストでよい結果が出る」と返答するのに対し、実際にはspaced learningをした被験者のほうがよい結果をだすということで、講演のタイトルでもあった"How we learn versus how we think we learn"という話が出てきます。

心理学の実験なのでいろいろと講演だけでは語られなかった付帯条件などもあるとは思いますが、こういうことを実際に実験して、直感には反する結果をじっくりと出し続けていたのだなあということが驚きでした。

Edward Tufte セミナー

視覚化やプレゼンテーションに関するアイディアや著書で有名なEdward Tufteは、1日セミナーを全国で開催しているのですが、今回は近場で開かれるということで参加してきました。立派なホテルのホールに200人くらい受講者が来ているのでなかなかのものです。最初の1時間は彼の著書を読むという時間に充てられています。(が、Tufteがその間に歩き回って本にサインをしてくれます(頼まなくてもしてくれたりします)。同僚の意見によれば、講演後に後でサインを求める人の列ができるよりも時間短縮になるのでは、ということで、まあそうなのかのとも思ったりします。

講演は(本と同様に)いくつかの実例を表示して、良い点、悪い点を指摘するところからはじまります。話の中でひとつ強調されていたのは「いったい何個の数字・データが見る人に提供されているのか」ということでした。ダッシュボードでは、たかだか5つくらいの数を表示するためにありとあらゆる飾りやデザインを使ってしまいますが、グラフやアイコン、そして必要に応じて文字で数値を表示することにより、数千の数値を伝えることはできますし、現代の5kや8kディスプレイはP.A.P.E.R.テクノロジーの半分くらいの解像度までは来ているので、情報を簡略化するというよりは、一覧性を高めることを考慮するべきという話でした。

espn.comの野球のページなども、box scoreに多数の数値が表としてまとめられたあとで、ホームランなどの稀な出来事は言葉で別のところに書くというスタイルになっています。espnのサイトのコメント欄を読めばどのくらいの知性の人が見ているかが見当がつくが、そういう人でさえもこれだけの数値を咀嚼できる、という話でした。

New York Timesにも悪い例があるということで、数値やグラフを使ってもっともらしい議論をしていても、未来予測のグラフがあまりにも正確すぎたり、情報元として示されている組織が中立ではなかったりするということに着目すると、信ぴょう性のない情報がわかる、という話でした。

午後のセッションでは、プレゼンテーションをする時のスタイル、そして心構えという類の話が多くなりました。Jeff BezosやSteve BallmerやSteve JobsPowerPointを嫌っているという話をし、Amazonではプレゼンターは6ページほどの文書を事前に作成し、会議に集まったところで各自がそれを読んで、そこから質疑をするというスタイルにしているそうです。スライドプレゼンテーションでは多くの時間が要点が話されるのを待つことに費やされてしまいますし、一覧性のある文書であれば各自が自分の早さでじっくりと読めますし、発表者も手塩にかけた文章が実際に読まれているというところを見られるのでやりがいがあるという話でした。

彼はしばしば「アホな上役に対してプレゼンテーションをしなくてはならないが、数値をどのようにまとめて視覚化すれば良いか」という質問を受けるそうです。が、彼の回答は「もし上役のことをアホだと思っているようならまずはあなたはプレゼンをしない方が良いかもしれない。」というところから始まるそうです。発表者の心構えとしては、まずは「同僚に対する信頼」に立脚していなくてはならず、批判を受けても、その動機について邪推をする必要はなく、真摯に受け止めるべきだと言います。大概のグループは似たような人が集まっている中で、意見の相違があった場合にはあなたが常に正しい側にいるという可能性は低いのですから。

後は、発表は内容で勝負するべきであって、あなたがどれだけ準備に時間をかけたかとか、スライドの枚数を何間に減らした、とかそういう話には触れるべきではないという話もありました。

Sparklineは1単語程度のスペースに数千の数値を表現できるし、名詞ではなく動詞としてのアノテーション付きの矢印を上手に使うのが良いという話もありました。

彼自身の講演スタイルで面白かったのは、皆から見えるところに助手の人がいて、話の内容に応じてウェブページをズームしたり、例としてあげるアニメーションを進めたりしているのですが、ときどき流れの都合上、助手の人がTufteにシナリオを指し示して「次はこの話をしてください」とひそひそ言っていたりするところでした。まあそういうこともあるでしょう。

というわけで、1日のセミナーとしては私も1日分以上に賢くなれたような気がします。