位相空間

初めて位相空間のことを学んだとき、とても不思議な気がしたことを覚えている。

袋の中にビー球がたくさん入っている。赤いビー球、青いビー球、縞模様のビー球、不透明なビー球、傷の付いたビー球。傷のないビー球。1月生まれのビー球。6月生まれのビー球。ビー球の中にはいろいろな仲良しグループがあって、赤いビー球グループと傷のあるビー球グループがあるのなら、「赤くて傷のあるビー球」のグループもあることになる。

ビー球たちには、とにかくみんな仲良しになろうよ、という気分と、別にばらばらで良いじゃんという気分がある。

みんなを仲良しにしようと思うと、袋に手を突っ込んで適当な数のビー球を取り出したとき、どんな組み合わせであってもそれを新しい仲良しグループとして特別扱いすることができる。つまり、どのビー球も他のどのビー球仲間に溶け込めていつも誰とも仲良しになれるわけだ。ビー球たちは、こういう約束にしておけば、どのビー球も他のどのビー球グループにもいつもすっと溶け込めるので、みんな絶対仲間はずれにならないよなと思ったはずなのである。

ところが、気が付いてみたらどのビー球にも自分一人しか含まない仲良しグループができてしまっていた。、「赤くて傷のあって3月18日生まれのビー球」がひとつしかないみたいに。そういうときに、「じゃあみんあ、本当に一番大切な仲間だけの仲良しグループに分かれてごらん」と言われると、結局みんな一人ぼっちで孤独にばらばらになってしまうしかなくなってしまうのである。仲良しを極限まで増やそうとすると、最後にはみんなばらばらになってしまう。

反対に、「みんなたまたま同じ袋に入っているだけで、別に誰も誰とも仲良しじゃない」という醒めたビー球たちもいるかもしれない。みんな一匹狼を気取っているのだが、同じように「じゃあ適当に分かれてごらん」と言われてみると、右往左往しても結局どうにも分かれることはできず、全員がひとかたまりのグループになるしかない。こちらは一匹狼を気取っては見るものの、実際にはどのビー球も「ビー球」という以外の個性には意味がなくて全体が白いお餅のようにくっついたぺたぺたの塊になってしまう。

その後いろいろなところで、「仲間と本当の仲間」、という対立に気が付くことになる。Smalltalkのオブジェクトも然り。プリクラのシールを集めるだけの友達しかいない高校生も然り。一神教多神教も然り。数学の範囲にとどまらず、「物を分類するとはどういうことか」についていろいろと面白い示唆を与えてくれたように思う。