フライト

なぜかひさびさの国際直行便のような気がする。

それはそうと、ispellをラップトップにインストールしようとしているときに、ispell-3.3.02のパッケージの中にある"Contributors"というファイルを読んでみたのだが、これが面白い。極々一部を見ただけでも、

  • モールス信号の認識プログラムで、トンとツーと休止の並びが、英語としてありにくい2文字の並びになっているかどうかを判別する。1959年ごろMIT Lincoln Labで書かれて、多分TX-2の上で動いていた。
  • Les Earnestが、一万語くらいの辞書を持った筆記体で書かれた手書き文字の認識プログラムを1961年に書いた。
  • Earnestが、Stanford AI Labの学生にPDP-6用のテキストスペルチェッカーを1967年ごろ書かせた。
  • Ralph Gorinという別のEarnestの学生が、SPELLというプログラムを70年ごろに書いて、これが今のispellの元になった。PDP-10のアセンブリ言語で書かれて、SAIL上にのみ存在したTOPS-10に似たWAITSというOS用のプログラムだった。
  • Bill AckermanがMITのITSに移植した。語尾変化対応のヒューリスティックスを書き換えてより辞書ベースのアルゴリズムにし、何よりもITS用のSPELLなので、ISPELLという名前にした。
  • Michael Adlerという高校生が1982年ごろAckermanの辞書を「盗み」、CP/Mに移植した。そのときはSPELLという名前にした。AckermanとAdlerは80年代の後半偶然にApolloコンパイラグループで一緒に働くことになった。
  • '83年に、Pace WillissonがC/Unix版をispellのドキュメントを元にゼロから書いた。
  • '87年に、Walt Buehringがそれを改良して、Usenetに投稿した。ispell.elも書いた。
  • Geoff Kuenningがそれを元にさらに改良を加え、バグレポートも集めたので、de-facto管理者になった。国際化対応はこのときからあった。
  • Bob Devine, Ashwin Ram, Ken Stevens, Martin Boyerの名前が挙げられている。Philippe-Andre Prindevilleがxspellを作り、Moritz WillersがNeXTStepインターフェイスを作った。
  • Pace Willissonは主に辞書の圧縮に関して自分の改良を続けていた。GeoffとPaceはお互いの変更をマージすることを考えたが、Geoffは新バージョンを近々リリースしようとしているところだったので、不安定なPaceのコードとのマージ作業は避けた。
  • 1992年にRichard StallmanがispellをGNUとして配布することの許可を求めてきた。Geoffは誤解もあってGPLにしたくなかったので、この話はまとまらなかった。
  • Stallmanはさらに使えるものを探し続け、Paceのプログラムを発見した。Geoffの版の方をつかうこともまた考慮されていたようだが、FSFはPaceの版をispell 4.0と呼びリリースした。同じ名前の高いバージョン番号のソフトをリリースすることによって、そちらが標準となるようにした。
  • 4.0がリリースされるとかなりの混乱を巻き起こした。ユーザーは「アップグレード」したが、多くの機能が失われていた。国際化対応も「落とされた」ので、ヨーロッパ人は怒っていた。Geoffのところにも見たこともないソフトの苦情がたくさん来た。
  • FSFはgispellという名前に変更すべきだ、という意見が多くでた。gで始まるGNUソフトはたくさんあったので、良い提案だったかもしれないが、FSFは拒んだ。Geoffが経過をまとめた記事をUsenetにポストしたときに、[より新しくリリースされたものでPaceのコードに基づいている」という書き方をしたので、Geoffも新しいやつを認めている、というように受け取った人もいた。
  • 「炎上」したので、Geoffはもう自分のほうのプログラムの名前を変更するべきだと心を決めた。が、Stallmanもまた接触してきて、FSFGPLではなくBSDライセンスでも良いと思っていることを理解した。これによって、FSFは4.0を破棄して、それにより4.0はネットから消滅し、ispellはBSDライセンスとなった。

今見るとispellはGPL ver. 2のようなので、いつかの段階でまた変わったのに違いない。思うに、ちょうど研究室に所属したころ「(わ)」さんが新しいispellはだめだ、ということを言っていた気がする。うん、そうだ。学部のころはispellなぞ使う機会がなかったし(今もそうだが)、世情に疎かったのだが、今はとても面白く感じる。