Reggio Children

というわけでReggio Emiliaまで来たわけだが、なぜReggio Emiliaかというと、ここには「世界で一番の」保育園、幼稚園(nidoとscuola)があるからである。91年に出たNewsweekの表紙で「The best school in the world」ということで紹介されたくらいだから。

今日の午前中は、Reggio Childrenという組織のリーダーであるGiordana Rabittiさんと2時間ほど話をさせてもらった。

この世界で一番というのはひとつの恵まれた学校がある、というだけではなくReggio Emilia munincipale全体で一本化した「システム」として運営されていることである。小学校以上はイタリアレベルで決まったやり方があるのだが、幼稚園以下なら各地域が独自に取り組むことができる。Reggio Emiliaでは敗戦後直後から、置き去られたドイツの戦車を売ってお金にして、そのお金で地域が一体化して教育をする、という文化が始まったわけである。イタリア最初の社会主義者市長が生まれたところで、薬をただで配ったり、教育も無料
でやる、という空気はもともとあったらしい。

その後63年にLoris Malaguzziという人が、もっとシステム化した取り組みにしていった。彼の思想は、Squeakers DVDを見た人にとってはおなじみの、「子供はもともと対話する能力を与えられて生まれてきて、情報のやり取りをしながら育つようになっている」という概念に基づいて、「子供の声を聞く」ということに大きな力点を置いている。絵を描く、とかものを作る、とか言うことも子供の持つ言語能力の一種だと考えるし、各言語でも子供に独自の文字を作ることを促したりもする話がでてくる。100 Languages of ChildrenというMalaguzziの本にはそういうことが書いてあるらしい。

Reggio Emiliaには、3ヶ月の赤ちゃんから3歳までの子供を預かる"nido"が13ヶ所と、3歳から6歳までのscuolaが20ある。地域の子供の40%がnidoに行き、92%はscuolaに通っている。ここでユニークなのは11人いるpedagogistaという人が、研究者的な視点を持ちながらもこれらのnidoとscuolaすべてに渡る方針決定を行っていることである。pedagogistaは教育学者とでも訳せるかとも思うが、実際には独特の立場なので翻訳不可能、ということになっているらしい。実地に子供の面倒も見つつ、日々の生活に忙殺されないでおもちゃの開発などをするところが秘密であろう。本当に早期の教育をしているときはその子がいったい何に興味を持ちうるかはわからない以上、かかわる大人もgeneralistとしての資質が求められる。pedagogista以外の先生たちも、pedagositaと一緒のチームで働くことによって、別の視点を持ちながら仕事ができる。nidoレベルの意思決定はpedagositaと先生のグループで行われる。

pedagogistaはscuolaとnidoの両方をまとめて面倒を見ていて、時々地域内で移動もする。ある特定のnidoやscuolaに偏らずに、地域全体で同じサービスを提供できるようにするのが目的である。

scuolaでは「だいたい」3歳、4歳、5歳児でクラスわけされているが、それとは別にatelierといういろいろなものを作る場所がある。これも「手を使って考える」という方針の一環である。Atelieristaは音楽、絵、あるいはダンスなどなどいろいろな専門の人がいる。

nidoとscuolaには、それぞれcucina(キッチン)が付いていて、栄養士が作ったメニューを提供している。もちろん、親にメニューの指導もする。イタリアではお昼も家に帰って食べるのが普通なのだが、この点も独自である。

「対話する」、という方針から、子供の話を聞く、ということを強調している。ただ聞くだけではなく、子供の話からさらに大きな話を引き出す努力をする。

毎朝、子供に面白かったことがあったか聞くが、ひとりなかなか言ってくれない子がいた。ちょっと待っていると、「人ごみ(crowd)」が面白かったと言った。そこで、先生は「じゃあみんな人ごみの絵を描いてみよう」といってみんなに絵を描かせてみた。その絵を壁に並べて貼って、みんなにどう思うか聞くと、ひとりの子が「この絵は変だよ。人ごみなのに前向きの人ばっかり」と言った。子供の描く絵だから、正面向きの人しか描けないのは不思議ではない。そこで先生は後ろ向きの人を描くには、あるいは横向きで目がひとつしか見えていない人を描くときに、もうひとつの目は描かないでよいというようなことを教えた。子供が興味を持ったことから発展させた例である。はがきを持ってきた子の話を元にどうやってはがきが送られるのかなどを話し合ったりもした。

Newsweekに記事が載ってから、毎日のように見学者がnidoとscuolaを見学したがるので、実際の活動に障害が出るようになった。Reggio Childrenは、地域全体のpublic relationを受け持つとともに、pedagogistaの養成、早期教育研究のサポートやコンサルティングなどを行っている公的企業である。株は一株25ユーロだが、市が50%以上を持つ。その他、一株だけ買っている市民がたくさんいて、3%程度はそのような市民のグループである。Reggio Emilia市の年間予算は1億ユーロほどだが、2千4百万ユーロはscuolaとnidoにまわされている。570人のスタッフが43箇所のnidoとscuola(数が合わないような気もするが)にいるので、小さな話ではない。