UCLA - 京都大学のTIDEコース

今日はBran Ferrenがゲスト。Branは"futurist"とかいう肩書きでしばしばWiredとかに登場していたりもしたが、Disneyに僕が入る直前までWDI R&Dのボスをしていて、その後Applied Mindsという会社を自分で始めた人である。Viewpoints ResearchのオフィスはApplied Mindsの中にあるので、日常的にその姿は見かけていたが、実際どういうことを話す人なのかはあまり知らなかった。そのため今日はなかなか楽しみだったわけである。

映画の特殊効果や舞台装置などいろいろなものをデザインしてきた人で、Manhattan Projectという映画では、プルトニウム爆弾そっくりに見えるものを機内に持ち込もうとして、それはいったいなんだと聞かれ、「爆弾のモデルだ」と答えたらあっさり通してくれたとか。

World's largest SUVというやつがオフィスに飾ってもある。1200マイル無給油で走れる。台所のデザインなども。

というAlanの前ふりの後、Branの話。

パワーポイントは悪。人間のコミュニケーション能力を減退させる。Alanもいうようにコンピュータはまだまだである。親は芸術家で祖父は台所の発明家(?)だった。おじの1人は舞台の音響技師で、もうひとりはロケット科学者だった。自分はエンジニアリングをやりたいと思っていたが、芸術的なバックグラウンドを受け継いでいたと思う。高校、MIT、Harvardのどれも退学した。芸術家の家族らしく「お金はなかったがよい生活」をしていたと思う。

ローマのパンテオンのドームは140footの直径で、高さは143footある。球がすっぽりはいるコンセプト。天井には穴があって光が入ってきて、なかの大理石を照らす。雨が降ってもそのまま入ってくる。ここに行ったときに私の人生が変わった。密度の異なるコンクリートを使って、上層部は軽いものを使っている。鉄でつなげてある(ribbed)。

ルネサンスの教会ではアーチの横に逃げようとする力を支えるためにflying batteries(?)というような構造で、だんだん小さくなるアーチを横に並べて支えあうような構造を作った。これはどのくらい大きくできるかを試して、壊れたら小さくする、というようなやり方である。パンテオンのドームは違う。ひとつの技術革新は「雨が降ったからどうだというんだ?」と天井に穴を開けたことである。天井に穴を開けて神々との交感をより強くできるようにし、光を取り入れられるようにし、技術的にもドームが作れるようにした。デザインの難しいところは人々はしばしば正しい質問ができるまで時間をかけないということである。この部屋(UCLAの講義室)はまったく良い感じがしない。良いデザインをするためにはどういうものが良い感じがするかを理解する必要がある。ピラミッドもすごいけど、石を積んだだけでもある。

パンテオンで重要なのはそれが技術的に2000年残るものだっただけではなく、それがみなが残したくなるような美しいものだったことである。芸術と工学の融合である。学校で専門家を養成するが、それらは統合されなくてはいけない。自分の影響によって他の人が新しいことを始める、というのがこの世界で一番重要である。Agrippaがデザインしたが、成功するか死か、という状況下では本来人は保守的になる。これ以前の神殿のデザインでは厳密なルールがいろいろあったが、パンテオンはそれ以前のどれとも似ておらず、これが技術的に可能であるという裏づけさえなかった。

Alanから。パンテオンのコンクリートは今まで作られたものの中でも最高のものである。酸化アルミニウムを主体としている。基本的には2000年修理の必要がなかった。___というドームは50年代に作られてから3回も補修工事をしたのに。

(手に取れる)物体というのは大事である。よくデザインされたものと悪いデザインのものとがある。95年ごろに手に入れた灰色の10cmくらいの石を持っている。これは世界でももっとも重要な石である。月の石ではない。月の石は本来売られてはいない。旧ソ連が持ち帰ったやつで砂粒くらいのやつがeBayで売られて、6万ドルくらいの値がついた(落札できなかったが)。その石には実際の価値はまったくないが、それでも値段がつく。

これは火星からの石である。人間が持ち帰ったものではなく、小惑星の衝突で飛ばされたものが地球に到達したものである。番号が振られている。95年当時は生命の痕跡があるといして話題になった。今はそうではないということはわかっているが、それでもこの石は生き物のように見える。金銭的価値では多分世界最高の石である。ものの価値は文脈によって決まる。イスラエルに行くとキリストのかけられた十字架の破片というものを売っている。もちろん偽物だが買う人の宗教やバックグラウンド、売る人の信用度によって、500ドルになったり25ドルになったりする。自分の人生が物体に価値を与える。Moore's lawは18ヶ月ごとにトランジスタ数を2倍にしてきたが、われわれはまだ楽しい(joyful)物体をコンピュータに見つけていない。

問題は、この世界はすばらしいデザインというものを待っているわけではないということである。世界は変わろうとする需要があるわけではない。それでも人生の中でもっとも面白いのは世界を変えることである。

Disney時代にはインターネットが重要なものになるとEisnerを説得しようとした。

ここで、世界を変えた発明に共通なものがあるかどうか考えたいと思う。世界を変えた発明の例を挙げてくれないか。言語?文字?パーソナルコンピュータ?紙?灌漑?宗教?武器?社会?活字?

アランから。グーテンベルクは印刷術を発明したわけではなく活字を発明した。硬貨作りにヒントを得て、鋼鉄で真鍮を叩いて裏返しの像を作り、そこに鉛を流し込んで活字を作った。木版は中国でさらに昔発明されていたが、それはページごとのものだった。

ベルはもともと難聴者の補助をするものを考えていたのだが、電話は難聴者を阻害する最大のものになってしまった。それまで対面して話すのが主だった人々を隔離してしまったわけだから。

人々が必要とする、といっているものを作ってもしょうがない。コンピュータが何台必要か、と聞かれたIBMが「世界中で5台」と答えたことがある。需要があったわけではない。無線を発明したのは誰か?テスラ?マルコーニ?ヘルツ?最初は無線誘導の魚雷だった。周波数が相手にわかると逆に操られてしまうので、周波数ホッピングをしていた。最初の情報戦争。88周波数(ピアノの鍵盤数)のピアノロールを魚雷と制御側が持ってそれに従ってホッピングした。

重要な発明の共通点のひとつは、発明者はその重要性を知らず、同時代人から拒絶され、貧乏なまま死んだということかも。

物語が技術を生かす。物語を語ることは我々の遺伝子に組み込まれている。エッフェル塔とか自由の女神とか世界貿易センタービルとかいうだけで、聞き手の頭のなかにあるイメージが喚起される。

SUVをデザインしていたときは5年ほど世界のあちこちのものを見て回った。チェコのtank retriever、オフロードカー、オンロードカー、水中車。どれも設計された道路以外ではちゃんと機能しないものばかりだった。私の作ったやつはどれも専門者には負けるが、どのような路面でもある程度ちゃんと機能する、というようなものになった。そして使って楽しいもの。楽しいものを作るのは重要である。デザインするときに考えるのは要求された機能を厳密に満たすものから、質として楽しく情熱的なものまでの軸があるが、私はこちらの(情熱のほう)よりにたってものをデザインするべきだと思う。

とにかくとっても早口で、自分で質問を投げかけつつ自分でどんどん答えていくのでなかなかまとまったノートをとるのは大変だった(というかまとまったノートは取れなかった)が、だいたいこのような内容だった。