UCLA - 京都のTIDEコース

今日はAlanの"Keynote Speech"の後半だった。もしかしたら先週のやつもメモとって置けばよかったかもしれないが、なんとなくいつも聞いている、という「安心感」が先にたってしまう。Seymourのやつを先週の日記に書いたときに気がついたが、後でまとめようと思って聞くと身が入るので、今回もやってみたところである。

先週のゲスト講師Seymourはコンピュータを使って、アイディアを自分で組み立てることによって学ぶ、ということを発明した人。

中間課題としてちょっとしたものを書いてもらうつもり。

  • 車の課題

車の運転の課題は9-10歳からできる。5-10%の子は、アイディアそのものに興味を持つことができて、お絵かきからはじめる必要はないが、他の子はそうは行かない。ある子は、大人になりたいと思って、大人のやる事、例えば車の運転を早くやってみたい。また他の子は、ヒーロー世界でヒーローになる夢を語ってみたいので、かっこいい車を書きたい。別の子は、とにかく人と集まって何か一緒にやるのが好きである。車の例は、幅広い子に対する動機付けになる。

ビューワの中身はオブジェクトの記号的表現で、絵に描いたものは同じものの図形的表現。

ペンで線が書ける。スクリプターもオブジェクトなので、同じように回転させる事ができる。ユニバーサルな単一種類のオブジェクトを使う事によってこれができている。みんなの使っているシステムでコードを回したりできないのであれば、それはオブジェクト指向とはいってもその名前を使ってみているだけである。

変数という概念は普通の数学では理解するのが難しい概念だが、子供はこのシステムによって一発でわかる。割り算を使って、車を運転しやすくする。割り算は普通の10歳のこの世界ではりんごを割ったりする事くらいで余り意味を持たないが、ここでは割り算というものが実際に意味を持つ、スケーリングに使えるものとして教えられる。

タイルを動かしたときに下のやつがずらずら動くのも、完全に触覚的に扱えるおもちゃというわけではないが、有機的な感じがするのを狙っている。

  • Scientifc American記事のDTP

Smalltalkは、オーバーラッピングウィンドウ、DTPWYSIWYGを最初に持ったシステムだった。テキストの中に写真を埋め込んで、テキストが回りこませられる。埋め込んだオブジェクトも同じスクリプトで回転させられる。少ない種類のオブジェクトしかないのでいろいろな事が簡単になる。

  • Dot trail

車があると、レースをさせたりスピードはどれくらいなのか、ということが気になってくる。各ステップごとに速度の値だけ位置を変えるスクリプトを作る。速度が一定なら等速度運動で、点の感覚は20で同じ。ステップごとに速度を15ずつ増やせば等加速度運動になる。

  • Which Mathematical Perspectives

ある種類の数学は、数や数値や直交座標系について考える。これは数百年前にはとても便利な数学だった。しかし、最近の科学ではベクトルと微積分的なモデルをより使う。ベクトルは一般化された数であって、向きと考えても良いし、数の集合として考えても良い。

  • Following the Road

センサーを付けて自動的に道を辿らせる。まず子供に目をつぶらせて、どうやれば道を辿れるか考えさせる。道に入り込みそうになったら一方向に、離れたら反対方向に曲がればよい。これはフィードバックというもので、強力な概念である。数学、工学、生物学のどこでも使われる。普通の数学ではフィードバックの概念は余りうまく捉えていない。

  • JanaeとAshley'sのプロジェクト

生徒に、道の外側ではなく真ん中を走らせるにはどうすればよいか、という問題を出す。20人の生徒が7通りくらいの解を考えて、そのうちの2つは特にエレガントだった。JanaeとAshleyは最初は自信があんまりなかったが、やってみたらとてもうまくできた。どんな曲がり方の道でも辿れる解である。仮に両方のテストにぶつかってしまったらどうなるのか、と聞いたら、+4と-4が打ち消しあうので大丈夫と答えた。問題解決を自分でちゃんとやって理解した例。別のエレガントな例はこれに似ているが、3つの別々なスクリプトが同期しないで動いているけどちゃんと動く、というものだった。

  • Jennyのプロジェクト(Pig RaceじゃなくてBig Race)

Jennyは絵が上手で、芸術家らしいビジョンがあった。鉛筆にタイヤを付けて走らせたりもした。(Squeakers DVDの一部の再生。)センサーとして何を使っていると思うか生徒に質問。答えは鼻の穴で、別々の穴が別の色を見るようにしてある。

  • Animation

アニメーションもSqueakでできるが、Squeakではそれは組み込みの機能ではない。オブジェクトはコスチュームを着ているようなもので、別のオブジェクトのコスチュームを着ることができる。虫の絵を描いてホルダーにいれる。...ホルダーのカーソルをincrese by 1する。3つめのまっすぐな虫の絵も描いてみる。これだけ違う事をやると子供は車の事を忘れてしまうが、同じ画面にある道を辿るスクリプトの事を思い出させてやると、とたんに虫が道を辿り始める。生物もフィードバックの概念を使っている。

  • Samのボール

increase byの数値を変えて、レートが変えられる。increase byの数値が速度やレートと関連があることを教えられる。

  • Books

Powerful Ideas本とスクイークで遊ぼう。

  • Movies Are Animations

映画も実は同じ原理。Black Box-ismを排除したい。今は消費者社会でみんなブラックボックスになってしまっているが、昔のコンピュータでは、どんなメディアもプログラマがちゃんとコントロールして使えるようになっていた。WWWを作った人々はそういうことを忘れて、ただ単にメディアをダウンロードしてきて使う、というモデルのものにしてしまった。

子供は見たことのあるようなゲームを作ったりもしたがるが、それができる。

  • Gradient Following

色のテストだけでなく、ひとつの記憶領域があれば勾配を辿ることもできる。もしより明るければ回り、暗ければまっすぐ進む。鮭の川登りはこれで模倣できる。支流があっても、簡単な原理でたいていの鮭は生まれ故郷に戻れる。

クマノミは(achromatic?)。だが、イソギンチャク(sea anemone)に隠れる。実際には特定のイソギンチャクのにおいを覚えてそこに逃げ込む。中学生レベルの課題。

Mitch ResnickのStarLogoで、かっこいいのでSqueak版を作った。蟻も勾配を辿っている。10000の領域上に何百もの小さな蟻、あるいは車みたいなものが走っている。

粘菌。水がなくなると、ばらばらに動いていたものが集まって半インチくらいの集合体になって揃って芋虫のように動くようになる。別の部分になったやつは別の動きをして全体を助ける。

伝染病。AIDSは遅い例。伝染病なので指数関数的なのだが、遅いのでみんなだまされてしまう。アメリカの政治家もたかが同性愛者の問題だといってほっておいた。子供は自分でシミュレーションできる。

スクイークで録音した音のサンプルをホルダーに入れたとしよう。スピーカーの絵をサンプルの大きさによって動かすとともに、ハードウェアのサウンドバッファにも書き込む。もしスクリプトを普通の繰返し速度で実行すると遅すぎて聞こえない。が10000倍のtick rateで動かすと、聞こえる。increase byの数値を変えてみる。ticking rateは同じだが、サンプルの位置が早く動くことによって高くなる。(学生からの質問に答えて)これはlow-pass filterではない。すべての和音がちゃんと再現される。信号処理の基礎で、元のサンプリングレートが十分高ければ、1.5とか1.2とかのnon-uniformな再サンプリングをしても大丈夫である。学生が周波数とは何か、という事を物理の授業で習っても結局何も理解していない。子供は実際に音の高さの変化を体験できる。パパにねだって300ドルで買ってもらったシンセサイザーも、やっていることはこの2行のプログラムと同じ。increse byまたは単純な一次微分方程式はいろんなことに使える。

熊の絵は、scaleFactorという変数を持っている。この拡大縮小もサンプルの再サンプルによって行われている。

  • Bill EdwardsのProfessional Purveyor of Pleasingly Pianistic Pyrotechnics

Piano Rollのトロンボーンの音量を熊の拡大率で決める。同じインターフェイスで出来る。

  • What Fools These Motrals Be...

これまでは全部コンピュータ上のことで、数学である。数学は嘘がつける。十万年の人間の進化は、サーベルタイガーがどちらに向かっているかを判断する事のほうを、サーベルタイガーのDNAがどうなっているのかを調べるよりも重要にしていた。
Betty Edwardsの論では人間は物事をシンボリックに余りにも早く判断してしまう。我々の脳はそういう風に作られている。この机はどちらも同じ大きさである。(机を回す。)何百回やってきても未だに違って見える。訓練された絵描きも同じ。筆をかざして長さを測ったり、鏡を使って見てみたり、目を細めてぼやかしてみたりする。人間の目は6から7桁の明度の違いを平均化して(対数的に)見てしまうので、影の見え方を絵に描くのは難しい。これが8万年に渡って科学というものが生み出されなかった理由である。

  • 科学の認知学

我々は本当の現象、例えば重力、というものは見ることができない。(うさぎの絵と手で作ったうさぎの形。)重力の観測はこのうさぎの影を見ているようなものである。ニュートンの法則で、うさぎの影にとてもよく似たものを作れるようになったが、数百年後に、ニュートンのうさぎのしっぽのところからは手の影が出てしまっているのに対して、実際のうさぎの影ではしっぽのところには丸い尻尾が付いている事が判った。これが相対性理論である。アインシュタインはまったく違う視点から考えて、この腕の影を取り除いた。それでも、科学はTruth(True)を扱う事はできず、Realなものを扱う。アインシュタインは、「We have to Distingush between what is true and what is real.」と言った。科学の授業で、「これがtrueである」と教えるのは、「科学鑑賞」のようなものであまり意味はない。科学はtruthを追うためのものではない。

  • Language doesn't Know about The universe

指輪物語の中つ国の地図と、18世紀に作られたインドの地図はどちらも同じように信じられる。言語ではどちらが本物かを語ることはできない。

  • 18世紀

このような手で持てる地球の模型が作られて、物好きな人は毎日持って歩いたりしていた。20世紀になって実際に宇宙に行って写真を撮った時には、科学者はどう見えるか知っていたので驚かなかった。

  • Measuring the rim of a bike tire

自転車のタイヤの円周を測る。先生も最初は20インチのタイヤだから円周率を掛ければ円周が判ると思っていた。直径を測ったら19インチと1/4だったが、まだ円周率を書ければ円周が求まると思っていた。実際に測るといろいろと違う答えが出てきた。Kimが韓国にあったタイヤのメーカーに問い合わせたら、メーカーでは押し出して作ったチューブを丸めて作っているにもかかわらず、円周の正確な値はしらず、ある誤差の範囲に収まっているという答えで、生徒は正確な答えというものがなんにでもあると思っていたので、それを聞いて本当に驚いた。科学の禅である。ただ、大きな違いにはなんらかの意味があるかもしれないが、小さな違いは測定誤差である、という概念を教えることができた。これはガリレオが400年前に摩擦は無視しよう、と決めたことと同じで重要な事である。

  • 質問タイム

「これで今までの数学や科学の教え方を置き換えようと思っているのか、それとも補助的にやるべきと思っているのか。」に応えて。
Seymourならなんと応えただろう。置き換えるべきと応えただろうね。私もそう思う。我々のやり方のほうが良いとは思っているが、まだ完全に置き換えるために必要なだけの材料がない。100くらいの例題があるが、それが1000くらいないと。高いレベルに目標を置いて、子供みんながそれを越えられるようにしなくてはいけない。

京都からの質問、「科学と宗教について」。科学が主張する物事は、宗教が主張する事とは違う。仏教はどちらかといえば近い。例えば輪廻転生の考えとか。科学は、紀元前500年頃に、今の科学とは違うバックグラウンドの元で発明されていた可能性もある。科学は宗教というよりは哲学に近い。仏教も科学というよりは哲学である。

という話でしたとさ。